メラニー・クライン勉強会(H.5.5.22)資料
『メラニー・クライン入門:第3章 妄想的−分裂的態勢』(担当者:重元)
u 生まれたときから自我は存在している。
初期の自我の機能:
(1)不安を体験。
(2)防衛機制を用いる。
(3)原始的な対象関係を形成。(幻想と現実において)
u 初期の自我はあまり組織化されていないが、統合への傾向は始めから持っている。
u 未熟な自我が生まれたときからさらされるもの:
(1)生得の本能の対極性によりかきたてられる不安(内的なもの)
=生の本能と死の本能との間の葛藤
(2)外的現実からくる衝撃:
@生まれることの外傷のように不安の種となるもの
A母から受け取る暖かさ、愛情、食事といった生命を与えるもの
u 死の本能からくる不安に直面したときに幼い自我はどのように対処するのか?
→ 死の本能の屈折(deflection)
(1)死の本能の分割(splitting)と乳房への投影(projection)。
(2)自己の中に残った死の本能は、乳房=迫害者に対する攻撃性に転換される。
u 上の過程とともに、理想的な対象との関係も形成される。(図1)
= 死の本能だけでなく、リビドーも投影される。
u 上記の2つの過程によって最初の対象(primary object)=乳房は、理想的な乳房と迫害的な乳房に分裂(splitting)される。
· 良い対象についての幻想は、現実における満足(gratification)の体験(例えば母による愛情や授乳)と融合し、それによって強化される。
· 迫害についての幻想は、現実における剥奪(deprivation)の体験と融合し、それによって強化される。
u 妄想的−分裂的態勢(paranoid-schizoid position)における主要な不安
= 迫害的な対象が自我の中に進入してきて、理想的な対象と自己の良い部分とを滅ぼしてしまうのではないかという不安。
u 上記の不安に対して、自我は一連の防衛機制を発達させる。
取り入れ(introjection)と投影(projection)―― 最初の防衛機制
→ 取り入れと投影によって、良いものと悪いものをできるだけ引き離そうとする。(分裂 splitting)
u 他に分裂に関連ある防衛
極端な理想化(extreme idalizaition)
魔術的万能感的否認(magic omnipotent denial)
u 理想化と万能感的否認は、分裂様の患者の分析においてしばしば観察される。
u 投影性同一視(projective identification)
自己や内的な対象の一部が切り放され、外的な対象に投影される。その外的対象が投影されたもの(もともと自己や内的対象の一部だった)によって取り付かれ、支配され、同一視される。
u 投影性同一視の目的
· 理想的な対象との別れを防ぐため。
· 危険の源としての悪い対象を支配下におくため。
· 自己の悪い部分を捨て去るため。
· 投影された自己の悪い部分によって対象を破壊するため。
· 自己の良い部分を内なる悪から守るため。
· 投影された自己の良い部分によって対象に原始的投影的償い(primitive projective reparation)をするため。
投影性同一視は、妄想的分裂的体制が乳房との関係の中で築かれた時から始まり、母が全体対象としてとらえられるようになっても続く。
u 5歳の症状の症例に見られる投影性同一視。
· 糊で床をぐちゃぐちゃにしたこと。
· 次の日、たくさん芽のついたゼラニウムをプレゼント。
· 床に“foxglove”の絵を描く。
症例についての解釈
患者が治療者に与えたゼラニウム
= “foxgleve”
= 「すべりやすい狐(slippery fox)」
= 患者自身の悪い、人に害を及ぼす部分
(= 父親のペニス )
患者は、自分自身の悪い部分を分析医の中に滑り込ませることにより、自分のいやな部分を捨て去り、幻想の中で分析医=母の体を所有し、その中の子供を破壊しようとした。
u さらに次の治療場面。引き出しを開けるのをいやがったこと。
u 患者にとって分析医は、患者から切り離された危険な部分を内に含んでいるように感じられていた。
u 「すべりやすい狐」は、悪い取り込まれたペニスにも同一視されている。投影性同一視によって、患者にとって分析医は、悪いものを所有し、それに支配されるように感じられ、しだいに全面的にに同一視されるようになった。
u 上記の諸機制(投影・取り入れ・分裂・理想化・否認・投影性同一視・摂取性同一視(introjective identification))の失敗
↓
自我の解体(disintegration)
· 自我の解体は、通常投影性同一視とともに起こる。(詳しくは次章)
u 投影性同一視のもたらす不安
· 自らが攻撃した対象から、同じように投影によって復讐されるのでは
· 自らが投影したものが、対象によって閉じ込められ、支配されるのでは
u 解体は、自我が不安を振り払おうとする試みのうち、もっとも破れかぶれのものである。
u 分裂様の機制を示す症例。
· 中年の弁護士。依頼人との話しが長くなることによって、しばしば他の依頼人との約束に遅れてしまう。
· 自分自身のことで面接に遅れた分析医の行為の方が、患者には立派に思えた。
u 患者の夢
· アパートの中の「煙草のみたち」の群れ
· 待合い室で待つ依頼人
· 分析医との約束
u 夢からの連想でふれられなかったこと ―― 分析医がヘビー・スモーカーであるということ
u 夢の解釈
(現実の)分析医(両親像をあらわす)
→ 夢の中では、分析医(そして待合い室の依頼人)と、「煙草のみたち」の群れに、分裂した。
u 患者の対象における分裂は、患者の自我の分裂を伴う(というより実際は自我の分裂によって対象の分裂が起こる)。
u なぜ患者が依頼人とうまくやっていけなかったか
患者にとっての依頼人たち
= 悪い両親像から切り離された多数の小片
= 彼自身から切り離され、投影された小片を含んでいる
u なぜ患者には、自分の行為より分析医の行為の方が立派に思えたのか
→ 分析医が自分の悪い行動を投影せず、そのの責任をとれるように思えたから。
u 患者の夢が示す分裂様の機制(schizoid mechanisms)
· 対象と自己における、良い部分と悪い部分への分裂
· 良い対象の理想化と、自己の悪い部分の小片への分裂
· 悪い部分の対象への投影と、その結果としての多くの悪い対象に迫害されるという感じ
· 小片に分裂した自己の悪い部分を投影するという方法 ―― 他の例
u 患者は、分裂様の機制を、おもに抑欝態勢の不安(特に罪悪感)に対する防衛に用いていた。
u 罪悪感は、自分自身中の悪いものについてではなく、自分自身の弱さについてのものと感じられた。(症例の話はここまで)
u 正常な乳児は、いつも不安な状態にばかりあるのではない。
u 妄想的−分裂的態勢に成し遂げられたいくつかのものは、その後の発達にとって非常に重要であり、その基盤となる。
u そのうちのひとつ、分裂
· 混沌の中から自我を生じさせ、経験を秩序づける。
· 後に、区別する能力へと発展する基盤になる。
· 成熟した生活においても重要。
u 分裂は、後に抑圧(repression)になるものの基盤となる。
u 分裂は、後のより高度な防衛の基盤になるのみでなく、それ自体が形を変えて生涯にわたって働き続ける。
u 分裂に関連したもの ―― 被害的な不安と理想化
u 投影性同一視も、役にたつ面を持っている。
―― 例えば、「他人の身になる」能力
u 妄想的−分裂的態勢の諸機制は、発達に必要なステップともみなせる。
u 正常人がどのようにして、妄想的−分裂的態勢から抜け出して、成長していくか。
―― 良い体験が悪い体験より優勢であることが必要条件。
u 良い体験が悪い体験よりも優勢な場合
→ 良い対象が悪い対象より優位にあることを、自我が確信
→ 生の本能が死の本能より優勢であることを確信
→ 2つの確信が互いに強化し合う
→ 不安が減り、分裂が少なくなり、自我が統合される。
· 悪い体験が優勢な場合については後の章で。